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立ち去ろうとする彼女に向かって、僕は全力で叫んだ。
「待って!どうしても会いたいんだ!会わせてくれるなら、何でもするから…お願いします!」
土下座して、精一杯の気持ちを込めて言う。
誰かにこんなにも心を理解して欲しいと思った事は今まで一度もなかった。
ただただ、必死に頼む。
小さな溜め息と共に、足音が近づいてくる。
「頭上げて…でも、1つだけ教えて。会って何がしたいの?」
答えは、僕にもわからない。
適当な事を言って誤魔化そうか?
しかし、彼女の目を見ると何故か見透かされているように感じた。
「…あの人を見た時から、僕はおかしいんだ…毎日、あの人の事を考えてしまう」
僕はこれまでの経緯を彼女に話した。
話を聞いた彼女は、眉をしかめた後に苦笑いを浮かべて言った。
「それって…女装したレンジに恋してるのかしら?レンジは同性愛者じゃないわよ」
「男性だというのは、名前からも何となく察してます」
「…まぁ、良いわ。何となく、あなたは私に嘘をついたりしなさそうな気がする。いまいち、目的があやふやなのが気になるけど…ちょっとだけ信用してあげる」
ニッコリ笑って、彼女は僕に手を差しのべた。
一瞬、戸惑ったが…今は印象を少しでも良くしておいた方が良いだろう。
差しのべられた手を掴み、立ち上がる。
彼女の手は少し冷たいが柔らかい。
「私は、ソラ。あなたは?」
「寛人です」
「じゃ、寛人…早速だけど手伝ってもらうわよ」
「え?」
「え、じゃないっしょ?さっき、何でもするって言ったわよね?」
ソラは、手を差しのべた時に見せた笑顔とは全く違う…獲物を捕えた肉食獣を思わせるような笑みを浮かべて言う。
「あなたが会いたがってるレンジを探すのよ。見つかるまで帰さないからね」
話が見えない僕には「え?」と聞き返すことしかできなかった。
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