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「探すって…レンジさん、行方不明なんですか!?」
今まで生きてきて、何かと「ついてないな」と自分の運の悪さを呪った事は多々あった。
しかし、こんなにもついてないと思ったのは人生でも初めてだ。
落胆し、ため息を吐く。
「そんなに気を落とさないでよ。心あたりはあるわ」
「心あたり?」
「うん、あなた…この辺りに潰れたクラブがあるのを知らない?」
残念ながら、僕はここに来たことがない。
そう告げると、今度はソラがため息を吐いた。
「仕方ない…ちょっと電話しづらいけど、日村に聞くしかないわ」
日村?
…なんだろう、妙に胸がざわめく。
「その人なら、そのクラブの場所がわかるの?なら、最初から聞けば良かったのに」
「ん…さっき、ちょっとイライラしてたからほんの少し嫌な感じで電話に出たのよ。だから、電話しづらかったってわけ」
「なるほど…ところで、その人はどんな男性なの?」
「知り合いの刑事よ。寛人、日村にも興味あるの?」
日村という人には会ったこともない。
しかし、不思議な感じがする。
会いたいような、会いたくないような…レンジさんとは全く別の感覚だ。
日村という名前を聞いた瞬間、少しだけ動悸が早くなったような気がした。
「いや、会ったことないし…別に興味はないよ」
そう答えると、ソラは眉をしかめて足を止めた。
「ちょっと待って…知らないのに、男だってわかったの?」
「え?」
言われてみれば、そうだ。
どうして僕は日村と聞いただけで男だと思ったのだろう?
空気が重い…少し開きかけていたソラの心の扉が、再び閉まったのを肌で感じた。
「なんとなく、そう思っただけだよ」
疑いの眼差しを向けられた為、思わず声がうわずってしまう。
これでは、よけいに怪しまれる。
「なんとなくね。もしかしたら、ただの勘だったのかも知れないけど…やっぱり、あなた怪しいわ!よくよく考えたら、今日も友達だと思ってた奴に裏切られたのよ。軽い人間不信ってわけ…やっぱりレンジには会わせられないわ!」
そう言うと、ソラは走り出した。
彼女を見失ったら、僕はこれからの未来まで失ってしまうのでは?
そんな大袈裟な事を本気で思いながら、僕は必死にソラを追いかけた。
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