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津田はミラーをチラリと見て、後部座席に座る自分で自分の腕を切った男を見る。
男の顔には血の気が無く、既にグッタリしていた。
このまま放っておけば出血死するかも知れない。
二人の男は、たまたま仁保からの頼まれ事をこなす為に紹介された行きずりの関係。
友人でも知人でもない。
津田にとって、死のうが生きようがどうでも良かった。
病院に連れて行っても厄介事が増えるだけだ…このまま見殺しにした方がマシだな。それにしても、何がどうなっているんだ?
そんな事を考えながら、津田は眉をしかめる。
この男たちが薬物依存性だという事は仁保からも聞いていたが…普通、どんなにドラッグがキマッていても自分で自分の腕を切断するなんて事があり得るだろうか?
歴史に名を連ねるロックスターや女優等が薬物が原因で自殺したという話は聞くが、体の部位を切断するなんて話は聞き覚えが無い。
津田も多少はドラッグの経験があるからこそ、奇妙に思った。
仁保から金を貰ったら縁を切れば良いと思ったが…「寛人がソラと接触したら引き離せ」等という簡単な事をこなしただけで100万円も貰えるという話は虫が良すぎるし、豹変した寛人の不気味さにも疑問が残る。
このまま仁保の元へ戻るべきか?
悩みながら運転を続ける中、後部座席に座っているもう1人が話しかけてきた。
「おい、こっち方面に病院は無いぞ?それに…あんた、さっきからスピード出し過ぎじゃないか?」
病院に向かっていないので、方向が違うのは当然。
津田は男に指摘され「あぁ、大丈夫だ」と適当な返事をした。
しかし、確かにスピードは出しすぎだな。
何も急ぐ事は無い…少しスピードを落とそう。
頭では、確かにそう思っているのに…足に力が入り、アクセルペダルから離れない!
(なんだ!?右足が勝手に前方に力を入れているぞ!?しかも、接着したかのように靴がペダルから離れない!)
異変に気づいた時には、もう手遅れ。
後部座席の男が叫ぶ。
「おい、信号赤だぞ!止まれ!」
津田の脳裏に浮かんだのは、自分の靴を撫でた寛人の不気味な微笑。
もしかして、あいつに…何かされたのか?
向かって来るヘッドラインの光りが視界を奪う。
それが、最後に津田が見た光景。
凄まじい衝突音と共に、津田たちの乗る高級車がトラックと正面からぶつかり、運転席も後部座席もぶっ潰れ…乗っていた津田たちは即死した。
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