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僕は夢を見ていた。
空は黒い雲に覆われ、稲妻が走り…今にも泣き出しそうだ。
視界に広がるのは荒野。
草木一本生えていない。
そこに現れたのは、狼の顔をした半獣人たち。
襲いかかってきた連中のうち、一匹の腕を剣で斬り落とす。
恐れをなした他の二匹は逃げ出した。
装備を弓にし、逃げた二匹に向けて放つ。
矢は見事に敵をとらえ、その命を奪った。
命…と言っても、これはゲームの世界の話で敵もゲームのモンスターだ。
本当の事ではなく、虚像に過ぎない。
「君、大丈夫か?」
誰かが、僕を呼んでいる。
空を見上げると、闇色の雲が裂け光が射し込んできた。
目を開けると…警官が倒れている僕を覗き込んでいる。
「立てるかい?」
「えぇ…大丈夫です」
殴られた腹部がまだ痛むが…立てないほどではない。
警官が手を差し伸べるが…何となく掴みたくなかったので自力で立ち上がった。
辺りを見渡すが、連中はいない。
警官が駆けつけたから、逃げたのだろう…現実にも、ゲームみたいに問答無用で襲いかかってくる人間がいるのだから、ゲームの世界と大差が無いな。
おや?こんなところに水溜まりなんてあったかな…しかも、うっすらピンク色に見える。
妙に気になり、水溜まりを見ると…ナイフが沈んでいた。
それを見た瞬間、頭に痛みが走り…妙なシーンがフラッシュバックするように浮かぶ。
男が自分で自分の腕を切断し、あの水溜まりがある辺りに落ちた。
今のは…何だ?
水溜まりに近づこうとすると、急に警官が僕の前に立ちはだかった。
「君、何があったか話してもらえないか?」
警官はペンとメモ帳を取りだし、僕に問いかける。
説明しようとした所に、慌てた様子のソラが婦人警官を2人引き連れ現れた。
「寛人、大丈夫!?」
「ソラ…大丈夫だよ」
僕はソラに微笑み返し、警官たちに見知らぬ三人組に襲われた事を話す。
「なるほど…まぁ、この辺りじゃ珍しくない事だ。2人とも怖い目にあったし、不安だろう。家まで送ろうか?」
男性警官は優しい口調で気遣ってくれているが…僕らにはやるべき事がある。
自分たちで帰れると告げ、その場を後にした。
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