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何度も繰り返し夢に見ることは、きっと心の底から求めていることなのだろうと思う。
私は毎日のように、同じひとを夢にみる。
その人の名前は車田秀。私の初恋のひとである。
夢のなかの彼は私にとても友好的で、私も彼にとても親しく接した。
現実の彼も優しかったけれど、それ以上に優しく。まるで、恋人のように。
私は夢から覚めるたびに、諦めたんじゃなかったのかと自らに呆れた。
彼は、これといってとりえのない平凡な私とは違って、なんでもできる。
いろんな人から必要とされて、あっちへいったりこっちへいったり、私なんかじゃ手が届かないくらいにきらきらしていた。
そんなすごい人からしたら、私はただの友達…いや、もしかしたら偶然話すようになっただけの、クラスメイトAなのかもしれない。
だから私は、実ることのない想いを諦めた。
臆病な私は、告白もせずに、ただ逃げ出したのだ。
………それなのに、逃げ出し捨てたはずのあの人の面影は、まだ私のなかに強くのこっているらしい。
「秀くん…元気、かな」
返事はないとわかりつつも、月並みな言葉を呟いてみる。
「つまらないな」
またつぶやく。
誰もいない公園だからだろうか、いつもよりもたくさん独り言を言ってしまうのだ。
何故ひとりで公園にいるのかといえば、昔の記憶を思い出したからだった。
辺りを見れば、あの日のように桜が咲きはじめている。
あの日、もうずいぶんと前の春のことだ。
偶然、私と秀くんとがふたりきりになってしまい、一緒に桜の花道を歩いた。
その時にした会話はたわいもないもので、今ではすっかり忘れてしまっている。
しかし、とても楽しかったということだけは私の中に残っていた。
「あの時が私の青春だったなあ…。あーあ、短い春だったよ……」
などと冗談半分で呟いてみたものの、傍らに誰もいないという事実を思い出して、冗談のつもりが本気でへこんでしまった。
「せめて友達誘えばよかった」
今更言っても遅いけど、と少し後悔しながら、座っていたベンチから立ち上がる。
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