もう一度君と

2/5
前へ
/5ページ
次へ
何度も繰り返し夢に見ることは、きっと心の底から求めていることなのだろうと思う。 私は毎日のように、同じひとを夢にみる。 その人の名前は車田秀。私の初恋のひとである。 夢のなかの彼は私にとても友好的で、私も彼にとても親しく接した。 現実の彼も優しかったけれど、それ以上に優しく。まるで、恋人のように。 私は夢から覚めるたびに、諦めたんじゃなかったのかと自らに呆れた。 彼は、これといってとりえのない平凡な私とは違って、なんでもできる。 いろんな人から必要とされて、あっちへいったりこっちへいったり、私なんかじゃ手が届かないくらいにきらきらしていた。 そんなすごい人からしたら、私はただの友達…いや、もしかしたら偶然話すようになっただけの、クラスメイトAなのかもしれない。 だから私は、実ることのない想いを諦めた。 臆病な私は、告白もせずに、ただ逃げ出したのだ。 ………それなのに、逃げ出し捨てたはずのあの人の面影は、まだ私のなかに強くのこっているらしい。 「秀くん…元気、かな」 返事はないとわかりつつも、月並みな言葉を呟いてみる。 「つまらないな」 またつぶやく。 誰もいない公園だからだろうか、いつもよりもたくさん独り言を言ってしまうのだ。 何故ひとりで公園にいるのかといえば、昔の記憶を思い出したからだった。 辺りを見れば、あの日のように桜が咲きはじめている。 あの日、もうずいぶんと前の春のことだ。 偶然、私と秀くんとがふたりきりになってしまい、一緒に桜の花道を歩いた。 その時にした会話はたわいもないもので、今ではすっかり忘れてしまっている。 しかし、とても楽しかったということだけは私の中に残っていた。 「あの時が私の青春だったなあ…。あーあ、短い春だったよ……」 などと冗談半分で呟いてみたものの、傍らに誰もいないという事実を思い出して、冗談のつもりが本気でへこんでしまった。 「せめて友達誘えばよかった」 今更言っても遅いけど、と少し後悔しながら、座っていたベンチから立ち上がる。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加