遺言状

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都心を大きく離れた場所に、鷹司の屋敷は圧倒的な存在感を纏って佇んでいる。 安土桃山時代から続く名家で、屋敷の外観は時の流れから疎外されたかのように、純和風な造りをしている。 お世辞にも交通の便が良いとは言えず、都会暮らしに慣れた鷹司奨悟は、面倒に感じつつも車を走らせていた。 電車を何本も乗り継ぎ、そこからバスで長々と揺らされるなど堪ったものではない。 しかし、人間とは不思議なもので、鷹司が所有している土地の一廓に植えられた、樹齢数百年を経た何十本もの枝下桜は、毎年時期になると観光客を集めている。 わざわざこのような辺境まで訪れる人間の気が知れない。 それは奨悟が、鷹司家の出身だからなのだろう。 慣れた、見飽きた。懐かしいとは思えど別段綺麗だと言う感動はない。 奨悟の父の代からIT事業を初め、様々な業種を幅広く展開するようになった鷹司は、今や世界各国に子会社を持つ巨大組織だ。 その後継者である奨悟は、幼い頃から帝王学を学び、そう言った環境を強いられ続けて来た為か、情緒と言うものに欠けている節がある。
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