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向かった先は、ホテルの裏口にある、従業員専用の出入口。
心地好い風が吹き抜け、奨悟は取り出しかけた煙草を内ポケットに戻す。
「…答えは出たか?」
「ええ…」
奨悟を射抜くような目で見詰める克彦に、彼は微かな笑みを刻んで頷いた。
そして、聳え立つようなホテルの外観を見上げる。
「利益を生み出す為なら、手段なんて選ばない。ホテルの1つと言えど、潰してしまえば鷹司グループ全てに影響を及ぼす。折原は、利用するにしても結婚するにしても、申し分ない相手だ」
「…奨悟…」
自分で紡ぎながら、今一現実味が持てない言葉を耳にして、克彦は安堵したように肩の力を抜く。
「例えこのホテルを潰しても、また事業を広げる事なんて訳もない。ですが…父さん」
ふっと笑ってホテルから顔を背けた奨悟は、いっそ穏やかに克彦を見詰め、囁いた。
「俺は…父さんや母さんが望む息子では、いられないのかも知れません」
「………何?」
その言葉の意味が理解出来なかったのか、克彦は表情を強張らせて聞き返す。
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