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「すいませーん。」
私の声に気づいた彼女がコチラに振り返る。
「あなた、さっきの店の店員さん?…なにか?」
私は身ぶり手振りで一生懸命に彼女を説得して店長の待つ喫茶店に戻るようすすめる。
「彼に言われたの?」
「違います。まぁ店長のおせっかいといいますか…とにかく!」
彼女もはじめは聞く耳持たずと言った感じだったが
私の気持ちが通じたのか一緒に戻ってくれることになった。
戻りながら話を聞くと彼とは幼なじみで
彼はお父さんが残した借金を返しているそうだ。
「でもね、私はそんな彼も含めて支えになりたい。」
(この人、ほんとに彼が好きなんだ。)
彼女の目は彼への愛に満ちている。
それはまだまだ子供の私から見てもわかった。
私達は店にもどると正面の入口ではなく、裏の従業員用の扉から中にはいる。
中に入るとそこには小さな椅子が一つ置いてありそこに彼女を座らせた。
「ここにいればあとは店長が進めてくれますから。」
私がそういうと
彼女はきょとんとした顔で私をみつめる。
私達がいる場所はちょうどカウンターの裏側になっており店の方からは見えない作りになっている。
私が少し顔を覗かせるとちょうど店長が彼の所に行くところだった。
店長には見なくても私達が帰ってきたことがわかっていたようだ。
(不思議な人…。)
そんな私の考えをよそに店長は彼に
「すみません。良かったらカウンターで少しお話しませんか?」
聞き耳をたててようやく聞き取れる声で優しく語りかける。
店長は彼をカウンターに案内するとコーヒーのおかわりをだす。
「すみません。お客様のお話を少し聞いてしまいました。」
「えっ。あぁ…恥ずかしいところを。」
彼は照れ臭そうに言った。
「何故待ってもらうのですか?」
店長は核心をつく質問を投げ掛ける。
ただ嫌味な感じはなくその優しい口調は側で聞いている私にさえ心地よさを感じさせた。
「俺達、幼なじみでね。小さい頃から一緒にいたんですよ。」
彼は手元のコーヒーを一口含むと懐かしむように語り始めた。
私にもわからないのだが店長の前に行くと何故か全てを話してもいいような気分にさせられてしまう。
そんな雰囲気をもっている人だ。
「でも、俺には親父が残した借金がある。
あいつには苦労かけたくないんです。
俺のそばで心から笑っていてほしいんです。」
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