第一章

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(この人もほんとに彼女のことを愛してるんだ。) 私は彼の顔をみると 彼は軽く笑うような、どこか悲しげに 「でも、もうだめかな。」 というとカップの中のコーヒーを眺めている。 「諦めたらだめですよ。 借金があることが彼女の苦だと思いますか? それともあなたと一緒になれないことが苦だと思います? よく考えてください。」 店長の言葉はまるで彼を煽るように彼を突き刺している。 「でも、もう遅いんです。そりゃ俺は彼女と一緒になりたい!でも…」 「でもはいらないはずです。 彼女と一緒にいたい。 ならば一緒に頑張ったらどうです? あなた達二人ならなんだって出来るんじゃないですか?」 彼は言葉も見つからないのか何かをつぶやくように口を開いたままになっている。 店長…すごいな。 「もう、彼女は戻ってくれないですよ。」 彼はやっとしぼり出したような声で言った。 「気持ちをちゃんと吐き出したらどうです? 私達が聞きますよ。」 店長のあの優しい口調が彼の顔から諦めを取り除いていくのが私にもわかる。 「俺は…やっぱり彼女のことが好きだ。 もし彼女が一緒にいてくれるなら今以上に頑張って苦労なんてかけさせません。」 店長はにっこりと笑うと 「心が決まりましたね。」 彼はすっきりとした顔で店長と私を見ると席を立とうとした。 「だ、そうですが?どうですか?」 店長がカウンターの奧に話しかける。 こちらから姿は見えなくても彼女にもちゃんと声は聞こえていたはずだ。
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