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「ぶはっ!?」
口に含んでいた歯磨き粉を、思わず鏡にぶちまける。学生寮の一室。男の一人暮らしにしては随分片付いた部屋だと思っている。その部屋の洗面所での出来事だ。
俺の名前は藤沢慧斗(フジサワ ケイト)。今日もこうして7時には目を覚まし、レトルト食品で固めた朝食を食べようと冷蔵庫に向かい、中身が無いことに落胆してしぶしぶ歯を磨いていたのだが。
「ったく、姉ちゃん! 何時の間に部屋に入ってきたんだよ……」
俺には1つ上に姉がいる。俺が今年高校2年になったから、姉は3年だ。
朝っぱらから驚いた理由は、そんな姉の姿が鏡に映っていたからだ。すらりと伸びた身体に、女子からも人気が高いといわれる整った顔立ち。流れる黒髪は腰まで伸び、髪型はその美髪を最も引き立てるストレート。
おかしいなぁ、無断で入ってくるような奴じゃないんだけどな。そんなこんなで姉を洗面所からとりあえず追い出そうとすると、姉は鏡からいなくなった。
おかしいな。夢でも見てんのかな?
振り返ると鏡にはまだ姉がいる。やっぱり夢だ。だって鏡に映ってるのは姉1人だからだ。普通なら目の前にいる俺も映るだろう。
痛い痛い! と無意識につねった頬からは現実を知らせる信号が。
「え? じゃあこれ……」
右手を前に上げてみる。鏡の中の姉も、対照的な動きをした。左手も同じ。髪を触ってみる。あれ、なんで俺こんなに髪が長いんだ?
まあ待て、落ち着け俺。まずは、まずは確認だ。この鏡に映ってる奴が俺と同じ動きをしているなら。そう、か、かかか確認だ。
ふ、ふふふ。まずは男の夢! ――――うわぉうふっ!?
ごめんなさいごめんなさい! 今俺は胸を触りましたごめんなさい!
って何で俺に胸が!? っていうか髪! 顔! 身体! 声!
マジか、マジなのか!? 俺、姉になってる!?
ピンポーン、と玄関から来客を知らせるベルが鳴る。
心臓バックバクな俺だが、こういう時は何故か冷静なもんだ。そっと音も立てずに玄関へ向かい、ドアのレンズ越しに誰が来たのかを確認する。
――――は?
もはや意味が分からない。玄関の外に立っていたのは、黒髪ロングの美少女。名前は藤沢響子(フジサワ キョウコ)。俺の、姉だ。
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