納豆と彼女

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朝食をとっていると、彼女の叫びが家中に響いた。 それに動じることなく、みそ汁をすすり、浅いため息を吐く。 やがてキッチンに現れた彼女が、非難の声をあげた。 「どうして起こしてくれなかったの!? 今日朝練あるって言ってたじゃん!」 「起こしに行ったよ。返事も聞こえたし……それで起きなかったのは緑ちゃんが悪い」 起こしに行ったといってもドアのノックをしただけで、彼女の寝起きの悪さを考えると部屋の中まで入る方が良い。 しかし以前着替えにでくわしてしまった事があり、自粛しているのだ。 その事があって僕を責めれないのか、うめき声を上げて、身体を震わせる彼女。 それをテーブル越しに眺めながらみそ汁のお椀を置く。 「……ひーくん、納豆かき混ぜておいて! 顔洗ってくる!」 言い残し、ドタバタと洗面所に駆けていく彼女を見送って、納豆のカップを手に取った。 母はよく朝食に納豆を出す。その日は僕が彼女の分の納豆をかき混ぜるのが僕の役目になっていた。 理由は彼女が毎回タレのパックを破るのを失敗して中身をぶちまけてしまうから。 そういえば料理や刺繍もできないとぼやいていた記憶がある。不器用にもほどがあると思う。 彼女は戻って来て早々、納豆ごはんをかきこみ始めた。 対する僕は部活に所属しておらず、時間に余裕があるので、悠々と食事を進める。 そして彼女の食事が終わる頃、僕は薄々気づいていた事を口にした。 「顔、後で洗った方が良かったんじゃない……? 納豆あるって分かってたんなら」 彼女の箸が止まった。 ぽかんと呆けた顔をした後、彼女は叫んだ。 「……それを早く言ってぇ!!」
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