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前方に見えた信号という常識は
止まることを強要していた。
私はハンドルを握る手を、ブレーキ部分に触れさせる気もなくそのまま突っ切った。
ここの信号は車の通も少なく、同じような学生服を着た何人かもそのままスルーしていた。
おばあさんだけが足を止め、学生達をただ見送っていた。
私が突っ切った横の交差点で
大きなブレーキ音が聞こえた。
振り向くこともなく
いつも通りの川沿いの道に出る。
桜の花びらは随分前に散って
今は道にこびりついている。
『さっきのは事故かなー』
なんとなくブレーキ音を思い出す。
『だとしたらよっぽど運がないな』
だって私は生きている
私が生きているのに
さっきのブレーキ音を
間近で聞いた人間は
死んでしまったかも
しれないのだから。
そんな意味のわからないことを
ダラダラと考え
結局その人の運が悪かったというどうしようもない結論に至った。
遠くで救急車がけたたましく音を発して
道をあけて下さいと鳴らしているのが聞こえた。
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