内側に住人

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 優しくて大好きな家族にも、どんなに仲が良くて大切な友人にも、言えない。何故かって心の中で少しでも「二重人格」や「多重人格」と疑われてしまうのが恐いからだ。自分で心配して悩んでいるくらいだから、そんなことはないのだろうけど病院送りにはなりたくない、誰だってそうだろう。こんなこと周りの皆にとっては結構どうでも良くて「ふぅん、あっそ。」と流してくれるならばそれで良いのだが、眉間に皺を寄せ、眉を八の字に下げて心配されたらどうしようなんて意味もなく不安がってしまう自分がいる。  実際はどんなことが起こっているかと言うと、表では笑顔を振り撒いて友人と仲良さそうにキャッキャと楽しんでいる自分がいるのに、心の中ではガラッと勢い良く音を立てて開いた襖の戸から侍の格好をした痩せ型のおっさんが出て来て、日本の真剣を相手の頭上に振り翳(かざ)し「早く帰らせろや、こちとら忙しいんじゃボケェ…」と言っていたり、逆に「あー楽しい、帰りたくないなぁ、このまま時間が止まっちゃえば良いのにー」なんて言って極めて普通な女子部屋の扉からヒョコッと顔を出した五才のテンション高めの自分が、床から腰の高さ程ある針の動かない丸い時計を左手に持って見えない廊下を走り回っていたり…。  これらは目に見えている訳ではない、言ってしまえば唯のイメージだ。だけど確実に自分の中には沢山の住人がいて、表と全く違う人や、過去・現在・未来の全ての自分が自由奔放に暮らしている。彼らの部屋の扉が開くとかなり賑やかではあるが、表の自分は、思いっ切り言いたいのに言えず喉と脳みそにムズムズ感を与えられたり、要らぬ発言をして他人に不快感を与えてしまったりと、たまらない思いに駆られることが多々ある。  これから住人の増減があるのか無いのかは分からないけど、上手く付き合っていかないと災難が降り懸かってくることは間違いない。とにかく今の自分は住人の声に耳を傾け何をしたいのか知ることから始まる。ゆっくりと深呼吸をして目を瞑り“扉”を感じよう、そうして出て来た扉を二回ノックをする。すると顔を出したのは格好は違えど顔は同じな三人の自分、いずれもニ四~五歳の社会人だ。一人は絵描き、一人はOL、一人は…ニート?前者二人は良いとして、後者のニートってなんなんだ。あ、そうか今、表の自分がニ一歳だから迷いが生じて出てきたのか…さて、どう向き合っていこうか。
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