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まだ少し薄っぺらく街を照らす空に鳥のさえずりが響きわたる。美也は制服の袖に腕を通し、ちょっとはね上がっている髪を整える。鳥の鳴き声は…聞こえない。12月になり、寒さが厳しさを増すこの時期に窓を開けないのも当然だ。美也は階段をホップするように下りていく。リビングに入ったが突然、身をひるがえし上へ引き返していく。
「ええー?にぃにまだ起きてないの?もぉ~」美也は兄を起こしに上へあがる。先程の軽快なホップ歩きはなく、スタスタとかけあがる。
そのとき、兄はあたり一面を輝きで照らしつける星空の中にいた。吸い込まれてゆくように暖かく体を包み込む。その中で彼は昔を思い出し、自分に問いかけていた。
―なぜ2年前のあの時、彼女は来なかったのだろう?その理由は今でも分からない…。あれから、僕は…―強くまばゆい光が追ってくる。星たちがその光によって消えてゆく…。真っ白い光があたりに広がる…。
「にぃに!」美也…の…声?兄はまだ現状を把握しきれていない。
「もぉ~、また押し入れにこもって…、早く起きないと学校遅刻しちゃうよ!」足をバタつかせながら美也は兄をせかす。兄もようやく体を起き上がらせるもすぐに襖を閉めてしまう。美也は顔をゆがませてもう1度呼びかける。
「うぅ~にぃに!」唸るような声に、兄はたまらず言い返した。
「うるさい、まだ僕は寝てたいんだ。寒いしまだここから出たくない」
「暖房つければいいのに…」すると美也は少し不思議な笑いとともに目の色を変えて押し入れに歩み寄る。
「にししし。じゃあにぃにが出てこないなら、みゃーがそっちに入るからね~。にぃにの押し入れプラネタリウム久しぶりに見たいし…」そっと押し入れに手をさしのべ襖を開ける。だが、すかさず襖は閉じられる。
「あぁコラやめろ入るな。これは僕1人で観賞する作品なんだ」
「作品って…。蛍光ペンで書いただけじゃん!」
「う、うるさい!」
「みゃーも入るのぉぉっ!」歯を食い縛りながら襖を引っ張る。もちろん兄に勝てることはないのだが、兄は眠気が覚めたのかあきらめて襖を開けようとした。
「分かった。もう出るから」不意に力を抜くとその反動でフルパワーで引っ張っていた美也が後ろへ吹っ飛んでしまった。
「イテテ…」そうしていると、大あくびをして兄が起きあがり、美也が床におしりをつけているのを見る。
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