第1章 アコガレ

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「どうした美也」 「にぃにのバカ!」少し悔しそうに美也が兄にあたる。まだ頭が正常に動いていない兄は首をかしげてそれを見ていることしかできなかった。  外はすっかり朝の陽気を取り戻していたが、それにしても寒い。美也も学校指定のコートにマフラーをつけてきっちり対策をとっていた。自分にもコートがあればと少しばかり思う。 「にぃにと学校行くの久しぶりだね」 「そうか?」 「だってにぃに、いつもみゃーのこと置いて行っちゃうじゃん」 「美也はすぐ道草食うからな…。それと、家の中じゃないんだから“にぃに”じゃないだろ」 「あ、そっか。油断してた、ゴメンゴメン」自分から学校ではベタベタしないでよぉとか言ってるくせに…。そう思えば美也っていつから“にぃに”と呼ぶようになったんだろう。そんなことを考えていると美也が何かを見つけたかのように前を見ていた。 「お兄ちゃん、美也先に行くね」 「あぁ」今度はちゃんと“お兄ちゃん”で呼んでいる。前を歩く女の子が友達らしい。立ち止まり少し眺めていると、右肩に手を置かれ、左側に短髪で気さくな感じだがどこか格好つけてる印象のあるなじみの顔があった。 「美少女と並んで通学とは朝からお熱いことこのうえない!冬の寒さも吹っ飛ぶなぁ、橘」 「誰でしたっけ?」 「おっ、そう来るか?そう来ちゃう~?」 「妹と知っててからかうような友達をもった覚えがないので」 「連れないねぇ…。せっかく新作が入ったから持ってきてやったのに」 「あっ!例の写真集か?」急に顔色を変え、橘はそのなじみのある顔の横にある水着の写った写真集を凝視する。 「親しき友のためにと思って持ってきたが…そう思ってるのは俺だけとはね~」左右に振られる写真集を見よう見ようと体を揺らす。 「あー!よく見れば小学校から一緒でクラスも一緒、寿司屋の次男坊で僕の親友、梅原正吉じゃないか!」 「おどろきの変わり身っぷりだな…」 「あっ…スマン…」 「いいってことよ!それでこそ我が親友、橘純一。むしろその食いつきを待ってたぜ」 「で…ど、どうだった?」 「まあまあ慌てなさんなって。…すごかったぜ」 「本当!?」  ゆるやかではあるが純一たちの通う輝日東高校の通学路は坂道になっている。純一、梅原をはじめ生徒たちはそれぞれに同じ目的地へ向かっていた。まあ、朝から写真集の話で盛り上がっているのは…おそらくこの2人だけだろう。
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