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「お、終わんない……」
机に突っ伏し、涙で濡れた書類の隅にミミズのようなダイイングメッセージが伸びた。グスンと鼻を啜る音が、カリカリとペンの走る音だけだった空間を邪魔する。
「あら、クイったら。今頃気が付いたの?」
忙しく動く手を少しも止めることなく、くすくすと庵は笑みを零す。
逃げ出せないように体を特注のワイヤーロープで椅子に括りつけられていたクイは、ガタガタと椅子を揺すり始め、その奥ではアシュレィがはたと顔を上げた。
「え、これ終わんないの?」
ぎらぎらじとじとと、お世辞にも宜しくない雰囲気の中で視線をさまよわせ──その間にも立ち直って拗ねた振りをしたまま伏せた机の上から、女性陣の胸や腰を拝み出したクイから目を逸らし──呪殺を捉えると小さく机を叩いた。
「ねえ、終わんないの? 俺、エンドレスだとかそんなのは聞いてないんだけど」
「あ? 知るかよッ!」
吐き捨てるように、チッと舌打ち。とうの昔にデスクワークを放棄した呪殺の卓上と足元には、数時間前までは確かにペンであったと思われる残骸が転がっている。
「ああ、そう。ふーん、君のペンは亜空間で歪められたみたいな素敵な螺旋状をしてるよね。マジック? フィラさーん!」
端から聞く気のない自分の返答に唇を尖らせ、そこから発せられた嫌みが耳に届くと、呪殺はぴくとこめかみに青筋を浮かべて机の脚を蹴った。その振動でアシュレィの机に飾られていたガラス細工が、音を立てて倒れる。
「ああ! ちょっと、割れ物なんだから気をつけてよねっ」
「うるせェェェッ!!」
追い討ちに呪殺が乗り出そうとしたところで、同時に、フィラの鶴の一声が響いた。
「それはこっちのセリフよっ! くっちゃべってる暇があるんなら手を動かしなさいよ……手・を!」
ここのところの仕事詰めで神経質になっているためか、少しばかり、というよりも結構目つきが般若の様。
「体を拘束しただけでは足らないのか」
氷雨の冷めた言葉に、般若が一人増えた。殊更殺気立った呪殺である。足元ではその影を、闇の魔石の力で椅子と床の上にがっちりと固定されていた。
慣れとは恐ろしいもので、場にいる上位騎士メンバーの誰もがさして気に留めないのだが、限界を感じた支給はそっと転職ガイドを開くのだった。
終わるがいい。
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