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一人でいると、静かだった。
しつこく言い寄ってくる男も、妬んでくる女子もいない。
アパートの一室でテーブルに突っ伏して
無音の中、ただただ無に返るのが好きだった。
心穏やかでいられた。
人と関わることに疲れていた。
孤独を愛し、防壁を築いて目を閉じれば、不思議と心が安らいだ。
カクテルを口にしてひとたび眠れば、嫌なことはすっきりと忘れられた。
ベランダに出て、一服しながらケータイの画面に目を落とす。
暗闇の中にぼんやりと浮かび上がる、カリナから届いた”相談したい”というメッセージ。
返事はまだできていない。
一枚壁を隔てた隣の部屋では、今日もパタパタと歩き回る音が聴こえてきた。
瞳を閉じて、そっと耳を傾ける。
透き通った琥珀色の瞳が微笑みかけてきたから……
私はそっと、微笑み返した。
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