防壁

15/15
前へ
/204ページ
次へ
アパートの角を曲がり、近くの公園に差し掛かった時だった。 「レナちゃんやっほ~」 不意に、耳に覚えのある間延びした声が私の行く手を阻んだ。 声がする方向を見てその存在に気づいたとき、私の頬は無意識に引きつった。 「な…………!!」 早朝の住宅街におよそ似つかわしくないオーラを放つその男は、公園のベンチに座ってこちらに顔だけ向けると、よっと手を上げた。 一つに括られたパーマがかった前髪を、鬱陶しそうにかき上げている。 お洒落メガネから覗く切れ長の目は、鋭い眼光を放ち淡々と獲物を狙う肉食動物のようだ。 ゆらりと立ち上がり全貌が明らかになると、着用したスーツがそのスラリとした体躯を際立たせていた。 私は開いた口が塞がらない。 何か悪い夢だと自分に言い聞かせ、踵を返して立ち去ろうとすると、後ろから肩をがっちりと掴まれてしまった。 振りほどこうにも身動きが取れない。 ギシギシと音を立てて後方を見上げると…… 「よう、久しぶり~……でもねぇか」 その男二階堂嵐は、満面の笑みを浮かべてそう言った。 .
/204ページ

最初のコメントを投稿しよう!

429人が本棚に入れています
本棚に追加