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アパートの角を曲がり、近くの公園に差し掛かった時だった。
「レナちゃんやっほ~」
不意に、耳に覚えのある間延びした声が私の行く手を阻んだ。
声がする方向を見てその存在に気づいたとき、私の頬は無意識に引きつった。
「な…………!!」
早朝の住宅街におよそ似つかわしくないオーラを放つその男は、公園のベンチに座ってこちらに顔だけ向けると、よっと手を上げた。
一つに括られたパーマがかった前髪を、鬱陶しそうにかき上げている。
お洒落メガネから覗く切れ長の目は、鋭い眼光を放ち淡々と獲物を狙う肉食動物のようだ。
ゆらりと立ち上がり全貌が明らかになると、着用したスーツがそのスラリとした体躯を際立たせていた。
私は開いた口が塞がらない。
何か悪い夢だと自分に言い聞かせ、踵を返して立ち去ろうとすると、後ろから肩をがっちりと掴まれてしまった。
振りほどこうにも身動きが取れない。
ギシギシと音を立てて後方を見上げると……
「よう、久しぶり~……でもねぇか」
その男二階堂嵐は、満面の笑みを浮かべてそう言った。
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