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ある晴れた昼下がり。
空には雲ひとつない青空が広がり、窓から侵入した秋の風が、オフィスをぐるりと駆け抜けていく。
今日は煩い同期もいない。
女子はミーティングで出払っている。
平和な事務所の真ん中で、大きい背伸びを一つした。
目を閉じて深呼吸をすると、すっきりとした空気が肺を満たしていく。
午後からは外出の予定もなく、仕事もひと段落していた俺は、個人用のケータイに目を落としていた。
昨日の朝届いた、持田さんからのメール。
『もうダメかもしれません……』
何があったのか返事を送っても、普段はすぐに返ってくるのに、一晩たった今でもレスが来る気配がない。
あの日、公園で持田さんから宣戦布告を受けて以来、彼女から来るメールの内容は今までのそれと全く異なるものへと変化していた。
送られてくる内容は全てレイナのこと。
今までは朝ごはんに誘われることも多かったのに、あの日を境に彼女に避けられてるというのだ。
レイナから連絡が来ることもなければ、隣の部屋なのに通路で遭遇することもないらしい。
ギクシャクとした空気が二人の間に流れているのは間違いないようだ。
そうなった原因が俺にあるだけに、一人頭を抱えていた。
今更ながら、衝動に駆られ、我を忘れていた自分に悪態をつく。
潤んだ瞳でもの欲しそうに見上げてくる彼女の熱い視線に、堪えられる者がいるならば名乗り出て欲しい。
あんな顔をされて懇願されれば、理性なんて吹っ飛ぶに決まっている。
密着した身体に伝わる彼女の体温に、あの日の俺は欲情していた。
……わかっているとも。これは全て、身から出た錆なのだ。
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