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――チン、と小気味のいい音を立てると、グラスの中の泡が軽やかに揺れた。
間仕切りで区切られた狭い半個室の空間に、いい歳をした男が二人きり。
胡坐を掻き、ぐいぐいとビールを飲み干す男を前に、俺は青ざめていた。
仕事が終わり、周囲の様子を注意深く窺いながら会社から一歩を踏み出す俺を、二階堂は黒い笑顔で出迎えた。
逃げようとするも、むんずと首根っこを掴まれ、強制連行されそうになる。
しかし俺も黙ってはいられない。
笑顔で家に向かおうとする二階堂を絶っっっ対に阻止したかった俺は、ご飯を奢るから勘弁してくださいと必死に説得し、今に至ったわけである。
夕方の出来事を思い出しただけで自然と目が据わった。
想像してみてほしい。コイツに自宅の場所を知られたらどうなるかを。
毎日毎日理由をつけては自宅に押し入られ、飯はまだかと騒ぎ立てられ、ただ酒を飲んだ挙句に泊まられる……。
女だって連れ込まれるかもしれない。
(……絶対に死守してやる!!!!)
そんな俺の心境などつゆ程も知らず、ゆったりと流れるジャズが、穏やかな時を刻んでいた。
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