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「言っとくけど、ストーカーじゃねぇから」
先に口を開いたのは二階堂だった。
「だれにこの場所を聴いたの?」
「それは言えない」
飄々と質問に切り返す二階堂に、若干の苛立ちを覚えた。
「は? 意味わかんないんだけど。勝手にキスしたり、人の彼氏のフリをしたり、こうやって通勤途中を待ち伏せされたり…………。これをストーカーと呼ばないで、何と呼べばいいのよ」
最近の私の人生で間違いなくネックになっているこの問題に、私はいいかげん終止符を打ちたかった。
なのに。
「誰にこの場所を聴いたかは言えない。でも、俺がどうしてこの場所へ来たのかは言える」
そう言って二階堂は足を崩すと、前のめりになってこちらへと向き直った。
近づくでもなく、離れるでもなく。
触れそうで触れられない距離はそのままに。
彼はごく真面目にこう言った。
「レナちゃん。…………俺と、正式に付き合おう」
予想だにしていなかった展開に、私は思わず顔を上げた。
交わる視線のその先に映る二階堂の眼に、嘘や迷いのようなものは一切感じられなかった。
コーヒー入りのカップが手からこぼれそうになって、慌てて持ち直す。
目の前に居るこの男が、一体何を考えているのか、私の足りない脳みそでは一切計り知れなかった。
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