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見える範囲は狭いが、出入口付近にはなにもいないように見える。
まだ躊躇いながらも、俺は戸を半分まで開けて中に潜り込む。つい癖で、失礼します、と律儀に言ってしまった。
中に入ってから、左を向いた時だった。懐中電灯が人の顔を照らし、俺の顔にも眩しいライトが顔に当たった。
「うわぁぁぁぁあ!?」
「きゃあっ!?」
ほぼ同時に叫んで、お互いに後ろへ下がる。暗がりを下がり続けて壁に背をぶつけ、少し痛い思いをした。
俺は薬棚の横にいる小柄な影を確認し、もう一度懐中電灯でその人影を照らした。思いがけず驚いたが、その人影は見覚えがあった。
「ひ、光、か……?」
「えっと、正人君?」
お互いの顔を照らして確認し合い、本当に光だと分かると、俺は壁に寄りかかって脱力した。
「驚かすな。というか、いるならいるで戸を開けた時に反応しろ!」
「ご、ごめんね。よく分からない状況だったから、反応していいものか判断つかなくて」
「まあ、いや、うん、そうだな。すまん。君の方が冷静だったわけだな。だが安心したよ。誰もいなかったらどうしようかと思っていた」
「私も誰かいるのか不安だったから、正人君に会えてほっとしたよ」
光は気が抜けたのか、柔らかい笑みを浮かべる。
よく分からない状況、と言っていたが、光は大分落ち着いている様子だ。こういうオカルト染みたことに強いせいか? 何にせよ、頼りになる相棒を得たものだ。
しかし、光と会ったからこそ不安が生まれた。千尋はともかく、幸太郎と一利はこんな状況に陥ったなら、まず間違いなく騒ぐし冷静さを欠くだろう。パニックになっていなければいいのだが。
せめて千尋と合流できれば叱咤して落ち着かせてくれるだろうが、合流できるだろうか。
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