異界

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「正人君は、これからどうするつもり?」 「俺はとりあえず、鍵の掛かった教室を開けるための鍵が欲しいから、職員室に行くところだ。入れるところは多いに越したことはない。 それに、祠からここに飛ばされた時、酷い眩暈が起きただろ? もしかしたら、誰か一人くらい閉まった教室の中で気絶していて、意識を失っているかもしれん。普通の状況でない以上、どんな可能性でも考慮すべきだ」 「うん、さすが正人君。私もそう思うよ。皆どこにいるか分からないし、調べられるところは調べておいた方がいいと思う」 「そういえば上から見えたんだが、この学校が林に囲まれていてな。その向こうに木造の学校――らしい建物が向かい合う形であったんだ。もしかしたら、誰かそっちの学校にいるかもしれない」  光が天井を見るように、目を動かした。俺もつられて上を見るが、別段変なところはない。光がうんうん唸っているのを聞いて、彼女が考え事をしていることに気が付いた。 「木造の、学校らしいもの……? それって、前の煌明高校かも?」 「前の? 旧校舎ってことか? 今の校舎があるなら、もう取り壊されたんじゃないのか?」 「ううん、違うよ正人君。まだ前の学校は残っているの。あの林のもっと奥にね。ただ、旧校舎は昭和の中頃に火事で全焼したはずだから、残ってると言っても残骸だけだね。 だから結局一から建て直さないといけなかったらしいんだけど、それなら立地も見直そうって話になって、今の場所に移設を決めたんだって。だから今の校舎は違う場所に建ってるんだよ」 「そんな話、知らなかった。というか、なんでそんな詳細を知ってるんだ?」 「私のおじいちゃんがね、当時の建設に関わってたの。高校入る時に、こういう話があったって教えてくれたんだ。 旧校舎が残ってることがあまり知られていないのは、あの祠が側にあるからだろうね。旧校舎が残ってることを知った人が、面白半分で近寄らないようにするためだと思う」 「旧校舎が林の奥にあるのなら、あの祠は当時の通学路にあったのか?」 「それはなかったんじゃないかなぁ。祠の周りに、人が通ってたような道の名残はなかったと思うよ」
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