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信仰が絶えた。それにおいかみが怒り、神隠しを起こしている? いや、怒りを表すなら、もっと別の形で示すんじゃないか。例えば土砂崩れなどの災害を起こす、あるいは自分を祀った村人を祟る。実際に神隠しなんて起こせるんだ。神ならそんなことも出来ただろう。
しかしそうしない。それはなぜだ? 怒りによって起こしているわけじゃない?
もしかしたらおいかみは、信仰がなくなったことなど――どうでもいいのではないか。
そうだ、歌にもあった通りだ。奴は供物を差し出すなら恵みを与えていた。つまり、信仰心で助けたんじゃない。見返りがあったから助けたのだろう。
ならばおいかみが求めるのは信仰じゃない。供物だ。食料だ。つまり、生きた人間だ。
神隠しを起こしている理由は、食事がしたいからではないか?
「なあ、光。おいかみはなぜ神隠しを起こしていると思う?」
「理由ははっきり分からない。でも多分、私たちは神様のお皿につまみ上げられたんだと思うよ」
「皿に乗せられたなら、おいかみの目的は……」
「私たちを食べること、かな。回りくどい訊き方してごめんね。私がおいかみについて思ったことは、神隠しは生け贄を求めて起こしているんじゃないかってことなの。
だから私たちは皆、あの引き擦る音の主に出会ったなら、絶対に殺されると思う」
だから、深く考えたくなかったんだ。見て見ぬ振りだというのは分かっている。だけど、会えば殺され、食われるなんて知ってしまったら、余計に心が落ち着かなくなる。
早くみんなを見つけないと、おいかみに捕まり食われてしまう。そんな焦りが出てきてしまう。
深く息を吐いた。受け入れないといけない。狂っている現実に目が眩みそうだ。
「急ごう。早く、みんなを捜そう」
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