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嫌な感じがした。指で撫でられるようなむず痒さが止まない。
「どうしたの?」
光が不思議そうにこちらを見上げてくる。だが返答は出来なかった。
恐る恐る職員室へ目を向けるが、職員室内にはなにもいない。
いたのは、職員室と外を遮る窓の向こうだった。
窓の外に、学生服を着た男がべったりと張り付いている。そして、洞のような目で俺を見つめていた。
窓越しに目が合うと、男は口だけ笑んだ。そして蛙の鳴き声のような、歪な笑い声あげる。
「みいつけた」
そう言うと、男の姿は薄れて闇に消えた。言葉に出来ない。出来るものか。
絶句した。言葉が出ない。思考が鈍る。ただ分かったのは、今のが人間じゃないことぐらいだ。
「正人君!」
体を揺らされ、光の声が呆けた俺の目を覚まさせてくれた。光の方へ目を向ければ、俺と同じく窓の男を見たらしかった。俺と窓を交互に気にしている。
「に、逃げよう!」
「すまん、意表を突かれた。行こう」
光も少し慌てている様子だったが、それでも俺より冷静だ。助けてもらってばかりで、自分が情けなくなってくる。
職員室を出て、二人で西側の階段から二階へ向かおうとした時だ。
ギ、ギ、ギ。
擦る音じゃない。別の妙な音が、今まさに上ろうとした二階から聴こえた。俺と光の足が止まる。すると、妙な音が唐突に止んだ。
遠くで小さく音が聞こえる。硬いものを柔らかいもので叩くような。足音? でもこれは、靴の音じゃない。そうだ、裸足で廊下を歩いているような音だ。
それは段々とこちらに向かっている。そして近付くにつれて、足音の間隔が短くなっていることに気が付いた。
歩いていたものが、走り始めている? こちらの位置がばれているのか。狙いは俺達だ!
俺は光の腕を掴んで引き返させると、職員室の前にある校長室に逃げ込んだ。ドアを閉め、俺は光と校長愛用の立派な机の後ろに隠れる。
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