異界

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 懐中電灯を切り、二人で息をひそめる。何人も走っているような激しい足音は、その勢いのまま、もの凄い速度で階段を下った。  すると、けたたましい音は突然ピタリと止まる。止まった場所は、恐らく校長室のドアの前だ。 「ひょ、ひょ、ひょ」  鳴き声のような、笑い声のようなそれは甲高く、男というよりは女性の声に思えた。人の声、であるとは思うのだが、正体は想像がつかない。  まさかおいかみか? いや、ドア越しとはいえ腐臭はしない。それにさっきあんな声は出していないし、あの麻痺するような恐ろしさは感じない。別のなにかだ。  コン、とドアがノックされた。頬を殴られたような気持ちになる。考えが吹っ飛び、ドアの向こうに意識を集中した。  何度かノックが繰り返されると、なぜかドアの上からも音がした。壁を叩いているような音だ。 「おりませんかおりませんか。ない、ない、ない。ひ、ひひひひひひ」  ノックが止まると同時に、またぺたぺたと足音が聞こえた。そしてもの凄い速さで遠ざかっていき、あっという間に無音になってしまった。  安堵というよりかは唖然としてしまったものの、ドアの前にいたものは立ち去ったようだ。光と顔を合わせると、苦笑いをされる。 「な、なんだったんだろ?」 「分からん。だが、凄まじい速さだ。おいかみ以外にも色々いるようだぞ」  動く手首、窓に張り付く男、高速で動き回るなにか、そしておいかみ。ここには一体、何体の化け物がいるんだ?
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