邂逅

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 光に考えを伝えると、快諾してくれた。光もどうすべきか考えていたようだが、やはりこの状況では思いつくことは少ないようだ。一つ一つ調べていくしかない。  体育館に向かい、まず鍵を開けて中に入る。普段は運動部が精を出しているのだが、もちろん誰もいない。静かな体育館は、ただただ暗闇に俺たちを引き込むばかりだ。  唯一の明かりである懐中電灯のライトはか細くて、これに頼るしかない、という現実に心の奥が絞まるような不安を感じた。  一歩、また一歩、進む度に足音だけが反響する。その内、足音以外の音が聞こえそうな気がしてしまう。異様に背後が気になって仕方がない。恐る恐る、第一体育用具倉庫の手前まで歩み寄ると、鍵を開ける。  指先にずしりと重みを感じる戸を引くと、無音を引き裂く騒々しい音と共に開き切る。すると、戸の向こうから明かりが漏れて、柔らかい風が吹いてきた。  紅葉した木々のトンネルが視界を覆う。湿り気のある腐葉土の香りが漂い、どこかで名も知らぬ鳥が囀る。体育用具倉庫に入っているはずのものは何一つなく、そこにあったのは山の風景だった。  脳が働かなかった。恐怖からではなくて、単純に理解が出来なかった。呆気に取られたと言ってもいい。  体育用具が入っている、こじんまりとした倉庫のはずだ。埃っぽくて、汗臭いような独特の臭いがするようなところのはずだった。  それが、どうして山? いや林なのか? どちらにせよ、どうして体育館からこんなところに繋がるんだ。  これは夢か、幻か?  いや、現実だろう。確かに現実味のある夢を見ることはあるが、俺の意識ははっきりしている。これは現実だ。落ち着け。なにが出てきたわけじゃない。ただおかしい風景を眺めているだけだ。ありえないことだからこそ、まずは様子を見るんだ。  葉が色付いた大小混ざる木々に挟まれた道は、雑草と落ち葉が重なっている。緩やかな下り坂で、道幅は四人も並べる程度だろうか。目の前の山道は獣道というより、人が使うための道という印象だ。  紅葉……秋の山なのか? 疑問は沸くものの、観察している感じ、危険はなさそうだ。行ってみるべきだろうか?
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