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笑いかけた顔が引き攣った。再会を喜ぶどころか、一利は泣きじゃくりながら俺にすがり付いてきた。その眼は見開き、まともに俺を見ていない。言葉にならない言葉を吐き続けている。
「落ち着け、何がどうした?」
「ひぃっ、あぁ来るっ! あれが、ああれああれあれ、あれがぁっ!」
「か、一利君、待って!」
一利は俺と光を認識していないのか、悲鳴をあげてその場から駆け去る。光が慌てて一利の後を追った。山道のさらに向こう、俺達が行こうとした方向だ。
俺もまたその背を追おうとしたが、それよりも早く、木々が大きく揺れた。すぐ近くに、何かが来ている。
俺が音に反応して振り向いた時、重く冷たいものを感じた。その場に立ち止まって身構える。
不自然に音が止んだ。姿は見えない。だが、俺は今、何かに目で捉えられている。聞こえないはずの息遣いが聞こえるようだ。目の前にいるような、強い気配を感じる。
成る程、一利が恐慌状態になるわけだ。俺を見ているのは間違いなく化け物の類だ。
俺達が歩いてきた山道側の木々の間から、揺らめく影が鈍重な動作で姿を現した。枯れた木の葉を踏み鳴らし、姿を見せたのは幼い少女だった。
黒く短いおかっぱ髪の、赤い着物の女の子だ。黒く大きな瞳は洞のようで、子供特有の丸顔に穴が開いているようだ。まるで生気を感じられない白い肌は、蝋で固めたように見える。
はっきり姿を見ているはずなのに、俺は自分の目を疑った。この少女は本当に目の前に存在しているのだろうか。どこか、現実味がない。
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