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不気味だが、今までの化け物に抱いたほどの怖さはない。代わりにあるのは、得体の知れない、見ているだけで騙されているような奇妙な感覚だ。
「君は――?」
口から絞るように吐き捨てた。その言葉に反応はない。
少女の周囲だけ、木々が揺れる。風が吹くわけでもなければ、彼女が触れているわけでもない。一人でに木々が踊っているようだ。
「どうして、こんな所に?」
もう一度言うと、少女は右手を伸ばした。距離があるから、俺には決して届きはしない。それでも俺はその手が迫るのが怖くて、後ずさった。
「……おいで」
呟くような言葉が、脳に刻み込まれた。それは少女の声色ではなく、女、老人、子供。何人もの声が重なりあった不協和音だった。
「お前、お前は――。おいかみなのか?」
少女は口を閉ざすと、深い闇の底を映した瞳で俺を凝視する。俺の心を透かして見ているかのようだ。少女は口端を上げて、上げて、嬉し気に笑んだ。
「おいで、おいで。一つになろう」
そう言って、少女が両手を広げた時だ。体が突然膨張し、肉がうねり膨らんで、華奢だった体が肥大化していく。
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