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一瞬何が起こったのか認識できなかった。
脳がうまく機能しない。
真っ白になった意識は急に起きた出来事により、対岸に孤立させられていた。
ああ……
なんだよ、これ……
正常に可動しているのは視覚と臭覚だけ。
いや、それも実際は怪しいのかもしれない。
だってこれは夢なのかも知れないのだから。
俺が頭の中で妄想している、くだらない白昼夢かもしれないのだ。
こんな時にさ。
じゃなきゃこんなの、説明つかないだろうが……
崩れるようにして俺に身を預ける姫。俺はその身体を無意識のうちに抱き留めた。
「よ、よかった……。義、経さ……ま……」
聴覚がかろうじで姫の声を捉える。それ以外聞こえない。
荒い息を吐き弱々しく微笑みながら顔を上げる。
いつもならもっと屈託のない笑顔を向けてきてくれるはずなのに、まるでその姿は花が枯れていくようで。
なに笑ってんだよお前さぁ……
どうしてそんな悲しい顔してんだよ。おかしいじゃんよ……
姫の身体は思っていた以上に軽かった。
本当に軽い。
最新鋭の十二単っていうのは嘘じゃなかったんだな……
そんな軽い冗談でさえ上手く口につくことも出来ず、引き攣った笑みでしか応えてあげられない。
俺は腕の中に抱き抱えた姫の背中にぬるっとしたものを感じ、確かめる。
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