俺の天使と下撲が修羅場すぎる

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皐はステラに、頭を叩かれていた。 ステラと皐の間合いは約2メートルと言ったところで、だいたいその距離を一気に詰めても構えることくらいは出来る。 ……が、皐は昨晩の優しい抱擁を思い出していて動けなかったのだ。 「ふぇぇぇ……痛いよぅ…」 「ふ…くっ………何故、でしょうか…?」 ステラはステラで顔を赤くして口をへの字に曲げ、息を荒くしていた。 平常心を少し揺さ振られただけでここまで乱心するとは、ステラ本人も予想してなどいない。 「な、なじぇとは……わ、わたしが昔びゃなしをしただけで…うぅ…」 涙目になり大きな瞳いっぱいの雫を溜め込んだところで、ステラはハッとして皐のその表情を見た。 普段から、さほど歳を感じさせない子供っぽい童顔を流れる涙とともに、さらに幼子の泣き顔ように皺くちゃにしたそれはもう… 「…は、うぅ…」 キュンと、来るらしいです。 女の最大の武器は涙だ、と聞いてはいたが、まさかこれほどまでの破壊力があるとはステラは知らなかった。 泣いた女の子がこんなにも可愛いなんて。 ……いや、違う。 何かが違う。 これは小犬や可愛いものを見た時に感じる親愛の情ではなく……何と言えばいいのか…こう もっと泣かせたくなるような。 「…ひ、ヒコ…にゃん…?」 フルフルと震える手つきで皐の両頬に手を当てて、腹の底から上ってくるような高揚を抑えながら優しく、愛おしく皐の頬を撫でながら顔を近付ける。 「はうっ……にゃんで、そんなに優しくするですか?(この胸の高鳴り…まさかこれが、恋?)………あ、あきゅましゃん…」 皐は顔を朱に染めて、ステラが顔を近付けると目をギュッと閉じた。 「…ひ、ひこにゃ…ヒコにゃん…」 「う…くっ、ふぇぇ…」 他人が見たら間違いなくレズか何かと勘違いされてもおかしくないこの状況。 恐らく二人ともこの状況下で、キヨトやリムが帰って来るとは考えていないだろう。 そもそもついさきほど出て行った二人がこれほど早く帰ってくるなんて、まずない。 だからその場に第三者が現れるのは、極めて予想外であった。
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