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階段を見上げると、それはもう足が進むことを拒否するような脱力感を感じた。
俺は過去に平泉の金色堂を見に行ったことがある。
金色堂は山の上の方にあり、そこまでは約500メートル以上の急な坂道。
俺は上る前から、その坂道を上りきるまでに有する疲労感を全身に感じた。
その感覚が今また俺の体を駆け巡った。
体が感じる前に脳が疲労を想像して、脱力感として体中から力を抜き取っていく。
一度、その山門の見えない階段にくじけかけた自分自身の頬を叩き喝を入れ、階段の一段目に足を置いた。その瞬間。
ズンッ
体が一瞬だけ、しかし強烈な重力を感じた。
それは次に足を踏み入れたリムも同じだったようで、「うっ」と声を漏らした。
最後に足をかけたヒコにゃんだったが、彼女だけその重みに物怖じずに階段を上りだし、途中で止まり振り返る。
「今のにゃにかがのしかきゃる感覚はこのやみゃでは日常茶飯じゅです。
それは山のきゃみ様が汚れを叩きはりゃうからって、私は聞いていましゅ」
山の神様だぁ?寝言は寝てから言えよ。
とは言えなかった。
実質、あの一瞬から体の中の何かが消えた安らいだような気分になったから。
足取りも軽くなったし何かに鼓舞されたかのように、気分が高揚していく。
そうか、さっきの一瞬で俺の中の不安を取り払ってくれたんだ。俺はそう直感した。
一度不安をなくせば体は軽く、長かった階段をサッサと上り進めることができた。
下を見ると、さきほどまでいた場所が小さく、そして駅が見えなくなった。
振り返って前を見れば既に山門。
「……霧が出てきました」
そして邪の者が迎えに来たかのように濃い霧が辺りを覆う。
俺ははぐれないようにリムの手を引いた……はずだった。
しかし引いた手は青紫に変色していて、視線を上げるとそこには絵に描いたような落ち武者がいた。
「………」
「…拙者、男に手を引かれたのは初めてで候(ポッ)」
「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!?」
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