俺の天使と下撲が修羅場すぎる

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落ち武者達をあと一振りというところまで追い詰めたリムだが、彼らがいきなり消えたせいで鎌はヒュンッて空を切り、バランスを崩したリムがフラフラとそこら辺にあった狐の石像にもたれ掛かった。 幽霊相手に全速力で逃げ回っていたヒコにゃんに至っては、肩で息をする始末。 相手は多数の亡霊を操るほどの者だというのにと、段々とメンタル的なものが欠けていく。 それにしてもまさか幽霊を使ってくるなんて思わなかった。 魔術師の一族かと思いきや、案外霊媒師が本業だったりして。 なによりこの空気。 落ち武者の亡霊達が本殿の方へと消えていったあとから、周りの空気がピンと張り詰められている。 「ぅぅ……兄さん」 息を整えたヒコにゃんが情けない声を出して言った。 「行くぞ。ヒコにゃん、リム。ステラを取り返すぞ」 リムは鎌を肩で背負い、強く頷くとニッと笑って余裕だと無言で言ってきた。 ヒコにゃんもオドオドしていたが、決心がついた様子で顔をこちらに向けた。 ……その表情は既に迷いはなく、ギュッと結ばれた唇、キッと釣り上がった眉、強い意志を燈した瞳。 彼女は今、血を分け合った兄と対立する決意を見せた。 十中八九、力と力をぶつけ合うであろう道筋を彼女は選んだ。 逃げてはいられない。 彼女の過去の一部しか知らない俺でも多分、彼女の今の心情を察する事ができる。 「お前の実力、見せてやれよ」 「…ハイッ!」 いい返事を返すヒコにゃんを背に俺は本殿の前に立つ。 中からは冷ややかな空気が流れ出ていて、鳥肌を立てながら木製の引き戸を勢いよく開け放つ。 その瞬間。 「逃げてくださいっ、キヨトッ!!」 ステラの叫ぶ声を耳にしたのと同じに、俺の体は冷たい床に叩き付けられていた。 「貴様がアレの飼い主か。よくも愚妹を引きずって来てくれたな」 ゲシッと俺の頭に足を乗せて、冷たく吐くように喋る奴がそこにいた。
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