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昨日ヒコにゃんがやったアレなんかとは比べものにならない。
炎は濃く紅く、エネルギーを濃縮させたのがよくわかる。だがそれだけではない。
放射熱の違いだ。あきらかにその紅蓮の球体から生じる熱が、数メートル離れた場所にいる俺にも伝わってくる。
それだけでもヒコにゃんとの実力の違いを、十分に理解させられる。
「キヨトッ!」
それをリムも反応することが出来たようで、叫ぶように俺の名を呼び樹に飛び掛かる。
「キヨトをッ、放せぇぇぇ!!」
しかし、振った鎌は触れることなく虚しく空を切る。
樹は見ることもないまま避けてみせた。
リムがバランスを崩すと、着地する前にリムの小さな背中に躊躇いなく回し蹴りをした。
蹴り飛ばされたリムは俺にぶつかるまで飛んで来て、俺にぶつかった瞬間にさきほど俺に使った拘束術を用いてリムを俺とくっつけたまま縛り付けた。
「ちっ。馬鹿野郎……何で当たりに行くんだよ。俺と死にたいのか?」
「んなワケあるか!」
ジタバタと暴れて抵抗するリムだが、その労力は両腕を胴体と一緒に捕縛された今はただの徒労に過ぎない。
ただ俺の腹とリムが擦りあってるだけで若干痛いんだよ。
「ッハハハハ。愚者にはお似合いよ!そのままその出来損ないの悪魔と共に…」
「やめて兄しゃん!!
ご主じゅッ……痛ぃ」
ヒコにゃんはダッと走り出し樹に抱き着き邪魔をしようとしたが、ドシなことにその一歩手前で転んでしまった。
俺はもうヒコにゃんが哀れに思えて仕方がなかった。
決めるところで台詞が決められず、挙げ句転ぶとはもう哀れ過ぎて抱きしめて撫でてやりたいくらいだ。
だが一つ気になったのが、足元に倒れ込んだヒコにゃんを見る樹の目だった。
悲哀に満ちた瞳を一瞬だけだが見せた。
それを見逃せなかった俺は、ある予想が脳裏に浮かんできたのだが、それは樹の言葉で掻き消された。
「……フン、目を背けるなよ皐。お前の、大切な友を」
「消してやる」
その言葉と襲い掛かる紅蓮の光りの中、俺の意識はブラックアウトした。
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