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「いい?須田嘘人。
あなたはたしかに死に切れない思いをしているわ。でもそれは、あなたが今の現状を見て、自分が死んだと、勝手な主観でとらえているだけに過ぎないわ」
人が変わったかのように淡々と口を動かしていく閻魔の姿に、俺は何も言えなくなっていた。
さきほどまではマイペースでゴーマイウェイな感じの天然っぽい少女。
それが一度(ひとたび)本業に着けば、まさに地獄の裁判官と言えるほどの圧力を放ちながら、発する言葉の一つ一つをまるで一個の銃弾のように俺に浴びせてくる。
「主観…って、ことは?」
「察しが悪いのね…。いいわ、教えてあげる。さっきの無礼は流してあげるわ」
見た目は本当に幼い少女なのに、口を開くと出て来る言葉姉のようで。しかしそこには確かな威厳があり、この少女こそが閻魔大王その人であると体が脳が感じとる。
「あなた…と、そこの彼女は'まだ'死んではいないわ」
「っ!本当か!?」
閻魔の口から出た言葉に、思わず立ち上がろうとして椅子とともに倒れ込んでしまった。
それを見て閻魔は無表情で歩み寄り、俺の頬を小さな手で撫でた。
背筋に冷やかなモノが走って、体中の鳥肌が立った。「どう?触れた感じは。
背筋が凍ったでしょ。それが生きている証拠」
「じ、じゃああんたは…」
「えんまちゃんよ…。
私は死んでないわ。生きてもいないけどね」
「え?」
「まあ、そう思うのも無理ないわ。
私はこの役職に着いた時から成長も衰えもしなくなった…………話しがそれたわね。それで、今のあなただけど……死ぬ寸前だわ」
閻魔は頬を撫でる手を止めない。
だが俺の中の時間は止めた。
「本当か!」
「ええ。0.1秒を一兆分の一まで引き伸ばして、私の体感時間だけ正常にしてあるわ。
ただし今のあなたは魂のみ、体は元の場所にあるの」
でもそれは絶望的だった。
俺はたしかに死んではいないが、もうじき死ぬらしい。
あの夜。リムと出会った時よりも確実に、不条理なほど'絶対'に。
「体の現状は……今のままでは変わらない。
100%死んで、また私の前に来るハメになるわ」
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