97

3/6
前へ
/67ページ
次へ
彼女は窓の外を見ていたのだろう。僕が扉を開けたとき、彼女はこちらへ振り向きかけているところだった。 今でも鮮明に思い出すことができる。 触れられそうな気さえする。 まるで羽根のように、宙を軽やかに舞う彼女の長い黒髪。 窓から差し込む光の粒子を取り入れて、まるで夜空に浮かぶ星々を眺めているようだった。 「おはよう」 もの静かでささやかな振動が僕の鼓膜を揺らす。授業中の、しんとした空間に響く彼女の声と同じだった。 「おはよう」 宙を泳いでいた彼女の髪が、すとんと落ちる。僕はしばらく、その場を動けなかった。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加