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何を言えば良いかな。
そんなことを考えていると、彼女はふっと微笑んだ。
それから、僕の名前を呼んだ。
「ミキ君」
彼女に名前を呼ばれたのは、これが初めてだった。とても心地よかった。夏の暑い日に、冷たい水を浴びせられたみたいだった。
つられて、僕も彼女を呼んだ。
「カヅキちゃん」
物寂しげに、唇だけを薄く広げて彼女は笑んだ。 母のような笑い方をするんだなと思った。
「これから水やり?」
彼女は窓の外を指さす。花壇は教室のすぐ側にあった。外へは、扉のような大きい窓から行き来できるのだけれど、僕は一度も横着をせずに、下駄箱から運動靴を履いて花壇へと赴いていた。
「うん。いまから」
廊下側にある自分の席へランドセルを置いて、外に出ようとしたら、また「ミキ君」と名前を呼ばれた。二回目は特に、何とも思わなかった。
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