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烝は屋根から軽やかに降りるとそのまま部屋に入っていき、姿を消した。
…どうやら上手く騙せたみたい。
(…相変わらずあいつは嘘つくんが下手やな)
部屋に戻り小さく笑う。
多分朝に土方さんに言われた言葉が原因だ。
朝から挙動不審なのに気づかない訳がない。
あそこで俺が寝ないなどと言えばアイツは距離をおこうなどと絶対に馬鹿な事を言い出す。
忍失格と言われようがなんだろうが別に構わない。
第一、俺はアイツ…恋歌と恋仲になったあの日から忍失格だ。
情を持った時点で忍はやっていけない。
情に流されて殺されかねないからだ。(しかも恋歌の場合素性が解らないのだから一番最悪)
だが…
(…アイツに殺されるんなら構わへん)
逆に言えば本望だろう。
俺は武士じゃない。
戦で儚く散るより愛しい者に殺された方が良いに決まってる。
恋歌はわかってない。
俺がどれだけ大切に思ってるか…
忍なんてアイツのためなら辞めてやる。
守るためなら命だって惜しくない。
本当はあの時、土方さんの部屋で恋歌が泣きそうだったことも知っている
抱き締めてやりたかった。
接吻して、一番大切なのはお前だと伝えたかった。
だが…
(導いてばかりじゃなくて、たまには自分の意思で俺の側に居らせな意味ないから…な)
試してみたくなった。
アイツがどんな反応するか。
きっとごめんねって泣いて抱きついて来るかと思ったが予想は外れた。
まさか自分が頑張って俺が恥じない、足手まといにならないような忍になると言い出すとは思わなかった。
(つくづく予想外だよ、お前は…)
疲れが溜まっていたのか、布団に入って直ぐ俺は眠りについた。
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