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「ねえ、部長?」
「なんだい新井君?」
新井は頬杖をつきながら外を眺め、部長は学校指定の学生服に白衣を纏いやかんをじっと見ている。
「アイスティーより先に、もっと普通の紅茶を研究しましょうよ~。」
部長はやかんから視線をそらさず、白衣のポケットに手を突っ込みながら口を開く。
「何を言ってるんだ新井君。
あと三ヶ月も経てば夏だよ?
あの猛暑の中、美味しいアイスティーは必須じゃないか。」
淡々と語る彼は、このT研の部長でありながら創立者でもあった。
元々家庭科室を使用していたのは家庭科部だったのだが、彼がT研創立のために潰してしまったのだ。
どんな手を使ったのかは彼以外に知るものはいない。
まさに紅茶道に生きる者と言っても過言ではないだろう。
「でもまだ部長の目指す紅茶神には遠いんですよね~?」
「そうだ。
だから尚更美味しいアイスティーを作るのも、紅茶神になるためには必要だろう?」
紅茶神。
それが何なのかは、やはり部長以外誰も知らない。
部長はその姿を、白く光る眼鏡で隠れている瞳の奥でいつも見ているのだ。
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