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「あたしがこれから聞かせる話はズバリこれだ」
と、靖代は黒板にチョークを走らせる。
そこに書かれたのは“酒々井さん”の文字。
「さて木下。これはなんと読む?」
唐突に指名された鈴花はハッとした表情を見せたあと――
「さけ…さかいさん?」
眉間にしわを寄せて答えた。
「残念――じゃあ我孫子」
まるで授業中のように、次に当てられたのは雅也。
しかし彼も「しゅしゅいさん」と答えて残念を食らう。
「他に、誰か読める奴はいないか?」
靖代の問いかけに教室内は静まり返った。
と。
「しすいさん」
教室の後方から声が聞こえて、全員がそちらを見る。
相変わらず姿勢を崩さないまま、月子がもう一度言った。
「しすいさん」
「神代、正解――これは“しすいさん”と読む」
全員の口から「おぉ!」と感嘆の声が上がる。
「なんか聞いた感じだとコックリさんやキューピットさんっぽいですけど」
そんな紅真理の言葉に、しかし靖代はかぶりを振った。
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