36人が本棚に入れています
本棚に追加
おぼつかない足取りながら、なんとか辿り着いたリビングのソファーに座る。
気持ちを落ち着けようと、大きく息を吸って吐き出した。
冷静に考えれば、お兄ちゃんが私を捨てるだなんて有り得ない。
あのパンフレットにもお兄ちゃんなりの理由があるに違いない。
はっきりとそう信じられる──しかし一方で、1度生まれた不安は消えない。
「あんなテレビ見ちゃった後だからって……」
良くない想像ばかりが浮かんできて、不安はどんどん大きくなっていく。
「お兄ちゃん……早く帰って来てよぅ……」
そんな私のお願いに応えるかのように、玄関の方から物音──鍵を開ける音がする。
そして、ドアが開く音。
少し間を置いてから「ただいまー」というお兄ちゃんの声が聞こえた。
「帰ってきた!」
いつもなら、お兄ちゃんの所へと飛んで行くのに、わたしは座ったままだった。
本当は、すぐにでもお兄ちゃんの顔が見たいのに。
抱き締めてもらって、その温もりを感じたいのに。
今、感じている不安を全部吹き飛ばして欲しいのに。
──なぜか身体が動こうとしてくれない。
「……そっか」
わたしはお兄ちゃんに拒絶されるのを恐れているのだと気づく。
お兄ちゃんの事を信じているはずなのに──信頼と不安がごちゃ混ぜになっていた。
わたしが動けないでいる間に、お兄ちゃんがリビングへと入ってくる。
「あれ? やっぱり居たのか」
「──っ!」
本当に何気ない一言のそれが、まるで私を拒絶する言葉のように聞こえて──私は思わず、縋りつくようにお兄ちゃんに飛びついた。
「──っと。ただいま、ハル」
お兄ちゃんはそう言って、お兄ちゃんの胸に顔を埋めるわたしの頭を撫でてくれた。
撫でてくれる手から伝わってくるお兄ちゃんの温もり。
「…だ……やだよぅ……」
失いたくなかった──絶対に!
「……ハル?」
訝しむお兄ちゃんの声。
いつの間にか、わたしは泣いていた。
最初のコメントを投稿しよう!