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唇は冷めているの。
……要らないから、必要ないから。
(嘘。あなたの唇で温めてほしい)
唇は動かさないの。
……口を開けば、汚い言葉ばかりが貴方を責めるから。
(嘘。本当は、「愛してる」と伝えたい)
唇は空気を吸わないの。
……吸う必要なんてないから。
(嘘。私は泡ばかり吐き出して、溺れてる)
水中で、ようやく唇は正直になったよ。
(今からでも、貴方に愛の言葉を囁ける?)
(まだ望みはあるかしら?)
(だって私は人魚。泳ぎは人一倍得意なのよ)
(お願い、私の足を、元に戻して)
(私の、……私の王子様に会わせてよ!!)
(王子様は私を探しているわ!! 私を必要としているのよ!!)
海面に、一つの泡影。
人魚姫は沈んでゆく。沈んでゆく。
姫は王子と結ばれずに沈んでゆく。
(……貴方は私の声を必要とはしてなかった)
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