着ない喪服と白い夜

2/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 クリスマス贈り物に何が欲しいか。そんな問いに意味は無い。サンタクロースがくれたのは、現実だけだった。  今年23歳を迎えた慎也は、四畳半の部屋で一人レトルト食品の袋を開ける。ビニールが剥がれる感触が少し心地よかった。袋に印刷されている手順に従い、電子レンジ内に食品を入れ、「加熱開始」のボタンを押す。レンジの中がうっすらと光り、皿が回転し始めた。世間はクリスマス、だが慎也は今、ただ起動する電子レンジを見つめるぐらいしかする事が無い。  今日を共に過ごすべき彼女は居なくなった。正確には亡くなった。その日、慎也は全てを失ったと言っても過言では無い。三日前、慎也と彼女は二人で過ごすクリスマスパーティーの準備の為、二人で買い物へと向かっていた。外の気温は低く、吐く息は例外なく白く染まっていたが、彼女は細く艶やかな白い腕を出し、元気良く通りを歩いていた。正直、慎也も気温など気にしていなかった。慎也にとっては、只彼女と歩けるという事が嬉しかったのだ。  20歳になって初めて出来た彼女は、流石に完璧とまではいかないものの、慎也の理想に近い女性だった。優しいながらも芯が強く、気が強いとも言えるのだが、他人の意見を尊重した上で自分の意見をしっかりと主張できる性格だった。自分にあまり自信を持てなかった慎也は、彼女に対して恋慕の情と共に強い憧れを抱いていた。 「慎也くん、キミはもう少し自身持ちなよ。私が選んだんだから、キミは格好良いんだって」  二歳年上の自分に対して少しも物怖じせずにそう言い放ち、そして無邪気に笑う彼女が好きだった。  軽トラックに撥ねられて彼女はあっさりと死んだ。即死だった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!