着ない喪服と白い夜

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 その日、買い物をする目的の店を前にすると、彼女は嬉しそうに店に走りより、少しして立ち止まった。そして慎也の方を振り向き笑顔で「早くおいでよ」と手を挙げる。自分もその笑顔に応えるべく、手を挙げようとした。その瞬間だった。  軽トラックが彼女の右横から彼女の身体を殴った。バンパーが彼女の右腿を打ちつける。腿は内側に折れた。その勢いで彼女の上半身は車のフロントガラスの方へと曲がり、その頭とガラスは思い切り擦れ、ぶつかり合う。そして軽トラックはそのまま彼女の左にある電柱へと激突した。  電柱も無惨に折れ曲がっていた。コマ送りの様な惨劇はハッキリと慎也の網膜に焼き付いた筈だったが、慎也には何が起きたのか全く解らなかった。トラックと電柱の間からひしゃげた腕が飛び出ている。その根元から血が流れ出し、彼女の白い肌を染めた頃にようやく理解できた。    運転手も死亡したが、運転手の飲酒運転が自己の原因だったそうだ。死体から気を失うほどのアルコールが検出されたと警察から報せがあり、それを聞いた時、何か心の奥底から湧き上がるものを慎也は感じた。それが悲しみなのか、怒りなのかは本人にも解らなかった。  彼女の葬式には出なかった。出ても、死人に自分が出来る事など無い。クリスマスプレゼントが焼香というのは、彼女も嫌だろうから。喪服は母親の葬式以来一度も出す事無く、タンスの奥底にしまっていたままだった。それで良いとも慎也は思っていた。
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