着ない喪服と白い夜

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 そして、クリスマス当日。慎也は一人でレトルト食品を食べている。彼女が出来るまで、今までの冬と何ら変わらない過ごし方だった。大きな七面鳥も、綺麗なデコレーションのケーキも無い、慎也にとっては普通のクリスマス。だがそんな日常の中、どこか空いた穴は電子レンジで温めただけのレトルト食品を食べた程度では埋まりそうに無かった。  彼女が居なければ何も出来ない人間だったんだなと考えつつ、慎也は洗面所に向かう。鏡に映る無精ヒゲを剃るべく剃刀を握った。その後にジーンズを穿き、安物のダウンジャケットを羽織る。携帯を充電器から抜き取り、部屋の隅にあった紙袋を掴んだ。玄関を出ると、既に外は暗く、雪が街を真っ白に染めていた。  彼女の家へと向かう途中で、袋の中を確かめた。中に入っていたのは、綺麗に包装された箱。彼女との買い物で買う予定だった、20万ほどのネックレスが中には収まっていた。これが慎也にとって人生で一番高い買い物。しっかりとそれを握りしめると、心無しか少し歩調が速くなった。慎也は彼女からプレゼントを充分に貰った。思い出、お揃いのストラップ、ありったけの涙。何かお返しをするのは当たり前の事だった。 「会ってくれるんだ。嬉しいな。いいトコあんじゃん」  夜の空は、慎也に現実と幻想を優しく与える。雪はまだ強くなりそうだった。
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