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『このBarで話そう』
木製の重たいドアを引き、僕と彼女は暗い店内を進んだ。
二人掛けのテーブルにはキャンドルが置いてあり、彼女が淡くぼやけて見えた。そんな彼女を見ながら、この店を選んで良かったと思った。
今日は彼女に別れを告げにきた。
僕はバーボン、彼女はソルティードックを頼んだ。
出来るなら涙など見たくはない。あんなにも悩んで出した気持ちが揺らいでしまうから。
僕が君に片思いだった頃、あんなにも焦がれた、君の瞳が、今はとても恐い。視線がさまよう。
僕は煙草に火をつけ、一口だけ吸い、彼女に言った。
『もう別れよう』
彼女は何も言わなかった。
この煙草を消したら、席を立とう。
二人の時間が灰になってく。
顔を上げるとバーテンダーが目配せをしてきた。いつのまにかグラスは空になっていたようだ。
消えかけの煙草を見て少し迷ったが『同じのを』と答えた。
新しいグラスを僕は一気に空にした。
すると今まで黙っていた彼女が口を開いた。
『この氷が溶けるまで恋人で居ようよ』
彼女は目に涙を浮かべて笑っていた。
『もう少しだけ・・・』
そな先は聞こえなかった。
このBarに来るまでは、愛していた彼女。このBarを一歩出てしまえばもう遠い人。
彼女の微笑みさえも消えてしまった。
そんな彼女を残し、店を出た。
いつかまた誰かと、恋に落ちるんだろう。
君の幸せを願ってると言うのは嘘ではない。
でも、
君の唇を、その髪を、その身体を、奪う誰かに嫉妬してしまうんだ。
僕はなんて勝手な男なんだろう。
さようなら。
ねぇ・・・恋人
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