お嬢様と呼ばないで

休日の訪問者

だんだんと暑くなり始めた5月の中頃。

良く晴れた、土曜日の午前中。

主婦が布団を叩く音や、遊びまわる近所の子ども達の声が聞こえる。

そんな穏やかな休日。

そこに、こんな季節でなくとも、かなり暑苦しいかっちりとしたオールドスーツを着た若い男が一人。

とあるアパートを見上げていた。

｢…ここ、か。｣

男は、小さく呟くと口元に笑みを浮かべ、アパートの階段を上り始めた。