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「さあな。少なくとも生徒じゃなさそうだけど」
「あれかな? 悪の秘密結社とか? 桜ヶ丘にとんでもないブツが隠されていて、それを奪いにきたとか。あるいは、それを阻止するために派遣されたヒーロー?」
「だとしたら目立ちすぎだな。僕たちに怪しまれてる時点で潜入失敗だ」
「き、厳しいね、創くん」
愛華が痛いところを突かれたように声を捻り出す。
同時に、一つ大きな風が中庭に吹き込んだ。
それは、ごうという音と共に噴水の飛沫をさらい、そこに佇む二人の黒いコートを荒っぽくはためかせた。
ばさり――と、背の低いほうのフードが、風にあおられずり落ちる。
その瞬間――。
「え……」
創は呼吸を忘れた。
「創くん?」
「……」
「創くんってば」
「……」
「はーじーめーくーん!」
「あ? お、おう!」
慌てて振り向く。
「行こうよ。クリームソーダが待ってるよ?」
「あ、うん、そうだったな」
脳裏によぎったものを意識の片隅に追いやり、創は再び愛華と歩き出した。
(まさか……、まさか、な)
愛華に気づかれぬよう、創はもう一度噴水のほうを見やる。
黒コートの背の低いほうは、再びフードを深々と被り直していた。
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