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 ──一体何が起こったのか。  もうそれは、考察の必要もなかった。小学三年生だった創にも、すぐに答えは導き出せた。  家屋が、文字通り消えたのだ。  そうとしか思えない。ベランダでの感覚も、欠片すら残していない建造物たちも、そう考えなければ説明がつかないのだ。 「そうくん!」  血なまぐさい匂いと呻き声を放つその山々の谷間を歩く創に、そんな声が届いたのは、ちょうど彼が丘の上の小学校を視界にとらえた時だった。 「そうくんでしょ?」  幼げな少女の声。創が振り向けば、彼のことを親しげに『そう』と呼んだその少女が、なだれかかるように飛びついてきた。創の紺碧とは対照的な、青みがかった淡い銀髪。粉雪のせいで、その髪がじっとりと湿っていた。 「ゆかりちゃん……?」  思わず、彼の口から少女の名がこぼれる。見知った女の子だった。同じクラスの隣の席で、両親同士仲がよくて、前の日には創と共に日直に当たっていた少女──陽ノ原(ひのはら)ゆかり。  いつも溌剌とした、気持ちのいい幼なじみだった。 「そうくん……、そうくん。うぅ……あぅ……、うああああああ……っ」  そんなはずの少女が、すがるように創に抱きついて、押し殺した声を漏らしていた。何度も彼を呼びながら、ぶるぶると震えていた。 「……どうしてなの? ……何が……、どうなったの? ……お父さんも、お母さんも……みんな。……私だけ、どうしてなの?」  嗚咽混じりのゆかりの声。支離滅裂と言の葉を飛ばす。  創はその姿を前に、必死に己の嗚咽を噛み殺していた。  夜空が気持ち悪いくらいに明るい。  助けを請う無数の声が絶え間なく響き、これが地獄かと錯覚する。  その何もかもから逃れたくて、創は天を仰いだ。 「あ……?」  瞬間、粉雪に紛れて、空を駆ける影を彼の目は捉えた。  それは、流星のごとき速度で天上を走っていた。  思わず、創の目がその動点を追う。  星空を覆い隠す雪雲の下を、一直線に南へと流れる影。それは一息に廃墟を越え、丘の上へと落ちた。  そして、創は見た。  彼の学び舎たる小学校が、手品でもかけられたかのように、呆気なく霧消する様を。音もなく、彼の母校が消える様を。
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