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「……悪いな」
創は言いながら、バツが悪そうにそれを受け取る。
「お礼はクリームソーダで勘弁してあげよう」
「抜け目ないな」
「当然。世の中ギブアンドテイクだよ創くん。ささ、早速行こう」
悪徳代官さながらの笑みを湛えながら、愛華はズンズンと歩き始めた。その横を、創もやれやれと並ぶ。
「それにしても、創くんがあんな事するなんて珍しいよね」
進みながら、愛華がそんなことを投げかけた。
「あんなこと?」
「先生に喧嘩売ったってこと。いつもは優等生じゃん、君」
「それは……」
言葉に詰まる。愛華の言うとおり、創はこれまで従順な生徒であったと自らも思っている。
しかし、島の話題が出されると、どうしても堪らなくなるのだ。ましてや、それを模範であるはずの教師が語る様を見ればなおのこと。
世間の正解と自身に眠る真実とが、彼を苛立たせた。
「ま、いいけどね。魔が差しただけって、そう思っとくよ私は。多分、みんなもそう思うだろうけど」
「みんなも?」
「そりゃそうだよ。一回キレたくらいで印象なんてそうそう変わらないでしょ? クラス替えから大分経ってるわけだし。創くん何気に人気者だし」
「特待生だから珍しがられてるだけだよ。年齢も一個違うし」
創の入学は異例だった。十六の時に、桜ヶ丘に招かれるという形での入学。
結果、同級生と一年の隔たりが生じている。
「違うと思うけどなー。……少なくとも私は違うし」
ふと、愛華が口元を綻ばせる。
最初、一番に歳の差を飛び越えて創に関わってきたのもこの少女であった。以来、気の置けない相手。
「……あれ?」
渡り廊下に差し掛かったときだった。隣を行く愛華が、不意に立ち止まった。
不審に見やると、彼女の視線が一点に注がれている。創の肩越し、中庭の噴水の辺りである。
つられて、創も視線を滑らせた。
すると、視界が異物を捕らえた。
黒いフード付きコートを纏った二人組み。
冬なのだから相応の格好なのだが、輝く飛沫の前に佇むせいか、それはどこか浮き世離れしたような異様な存在感を醸し出していた。
深くかぶったフードのために、その顔は窺い知れない。
「なんだろうね、あの人たち」
目線をそのままに、愛華から疑問の声があがる。
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